泣きそうだった
胸が詰まった
言葉が出なった

ごめん。雛森………


貴女の手料理


その日はたまたま、五番隊の隊舎に用があったから行った。
用は藍染隊長にうちの隊長からの言付けものを届けるものだった。
用事を済ませた私は、帰ろうとしていた。
すると雛森が私を止めた。

「乱菊さん!」
「ん?どうしたの?雛森……」
「今日、一緒にご飯食べませんか?」
「お〜いいね♪雛森の手作り?」
「はい…じゃあ、夕方迎えに行きますね!」
「わかったわ。お酒用意して待ってる☆」

久しぶりの誘いで本当に嬉しかった。
私も雛森も此処最近忙しかったから、なかなか一緒に話が出来なかった。

数時間して、雛森が迎えに来た。
私は一緒に雛森の家に行った。

「じゃあ、準備するんでゆっくりしててください。」
「オッケ〜オッケェ〜〜」

私は客間を出ていく雛森に後向きのまま手を振る。
客間は本当に、必要最低限の机とイス、それから……

あっ……

私はそれがあるところまで歩いて行った。

「……なんでこんなもの置いてるのよ」

それは、雛森の写真が沢山飾ってあった。
その中に、幼い隊長と雛森が映っているものがあったのだ。
私は写真に嫉妬した。
相手が隊長だから。
それも、理由の内だろう。
だが、私の中の理由は、幼い時から知り合いと言うところだ。

「はぁ。本当嫉妬しちゃう…」

こんな小さいときから、この子を独り占めにしてるなんて…

写真を地面に叩きつけたい気持ちに襲われたけど、必死に堪えた。

「…何やってるんです?乱菊さん…」
「ひっ雛森っ!!!!びっくりしたぁ。オッパイ落ちてない?」
「…落ちてませんよ。準備が出来ましたから、どうぞ。こっちへ。」

雛森はちょっと呆れながら、私を案内する。

私は雛森の案内した、食堂へ来た。
机の上には、多くの種類の料理が並んでいた。

「すっごぉい…全部一人でやったの?」
「はい……」
「すごいよ。雛森…食べていい?!」
「もっもちろんです!」

私は、雛森の手料理を味見する。
うん。
すごく……すごく…………………

「らっ…乱菊さん…?」
「雛森……台所貸して。」
「はっはい…!」

私は台所を貸してもらい、同じようなものを作った。
もちろん。
私の作れる範囲で。

「さぁ!食べてみな。」
「いただきます…」
「どう?」
「………おいしいです」
「でしょう。さて。あんたは何、間違ったのかしら。」

雛森の料理はお世辞でも、おいしいとは言えなかった。

ここは、女として、料理を教えてやらなきゃ。

と、私は思ったわけ。
今日、私を呼んだ理由もそうなのだろう。
料理をみてもらおうと思ったから、私を呼んだのだろう。
よかった。
最近おつまみ以外の料理も作り始めて。


何時間か料理を教えてあげれた。
だいぶ日が暮れて、私が持ってきたお酒を飲むことになった。
月を見ながら、縁側で。

「っくぅ〜っうまいねぇ」
「そうですねぇ」
「さすが京楽隊長お薦め…」
「ひょっとして……また盗ってきたんですか?」
「……貰ってきたんだよ?京楽隊長に…」
「ちゃんと断ってないのは同じですよ」

雛森は少し膨れて、そっぽを向いてしまった。
そんな行動一つ一つが可愛く、愛しく思えてしまう。
本当に私の近くに居てくれないのかな。

愛しい雛森……好きよ

心の中で呟いてみる。
あなたには、届かないけど。

「今日は……ありがとうございました。」
「いいのよ。気にしないで〜」

私はお酒を飲みながら、心の中で呟いた。

あんたのお願いなら、どんなことでもうれしいからさ。

大きな満月を見ながら、一時を楽しむ。
庭からは鈴虫や蛩の鳴き声がする。
私たちはそんな中、静かにお酒を飲んだ。

招待されてから、しばらくたったある日。
雛森が尋ねてきた。

「あ〜ら。どうしたの?」
「お弁当作ったんですけど、味をみてもらいたくて…」
「おや!私にお弁当?」
「はっはい。」

ちょっと複雑そうな表情を浮かべていた。

私に………じゃないのね。隊長に…かぁ…

だが、お弁当は私に向けられている。

あれ?おかしいな…まぁ、今はいいか。

私は、あまり深く考えないようにして、明るい声で、雛森に言った。

「ありがとう〜〜雛森〜!も―お昼時間無くてさぁ…」
「え?どうしてですか?」
「隊長が仕事をため込んでさぁ…」
「お前だろ!松本!」
「あら?そうでしたっけ??」

私はわざと隊長の所為にした。
隊長は怒ってる。
当たり前だけど。

「じゃぁ、雛森!これもらうね!」

私は先程から差し出されてる、お弁当を貰った。

「はい。どうぞ…」
「なんだそれ…」
「雛森が私の為に作ってくれたお弁当です」
「ふ―ん」

羨ましいだろ!隊長!

心の中で勝ち誇ってみる。

「羨ましいでしょう!隊長!」
「別に羨ましくねぇよ」

そう言うと、隊長はそっぽを向いて席に戻っていった。
我慢しちゃって。
顔は『実は欲しかった』って言ってますよ。
私は、雛森にお礼を言ってからお弁当を開けた。

「わぁ……」

よく、練習したんだろうと。
お弁当から伝わってきた。

「どれどれ?」
「あっやっぱり、気になるんじゃないですか」
「うるせぇ。」
「欲しいって言ってもあげませんよ」
「別にいらねぇよ」

私は隊長を尻目に、お弁当を食べ始めた。

見た目…一応合格。味……ん〜おまけ合格。

こんな風にいつもお弁当持って来てくれたらな…そんな甘い妄想が頭の中で広がっていた。

でも……

そう。わかっているんだ。
どうせ料理は隊長の為なんでしょ。
でもいいの。
そうやって関われてることは嬉しいから。

でも…やっぱ淋しいな…


いつのまにか月日はめぐり、私の誕生日が近づいていた。

「お疲れさまで〜す」
「お疲れ。」

カツンとグラスを合わせて小さくカンパイした。
修兵と一緒に飲むのはいつ以来だろう。

「最近なんかいいことありました?」
「いや…全然無いわ。あんたは?」
「…俺は………ないです。」
「何…その間…?」

修兵のやけに長い間が気になった。

「特に意味は無いっすよ!」
「そう?あやしい…」
「乱菊さん(汗」

こんな風に会話するのも久しぶりだった。

「お!いいねぇ〜ボクも混ぜてよ〜」

どこから嗅ぎつけたのか、いつのまにか京楽隊長が近づいてきた。

「京楽隊長も〜?」
「いいじゃん。美味しいお酒あるよ〜」
「でもなぁ…」

隊長を混ぜると七緒が恐いからなぁ。

でもお酒は呑みたい!小さな葛藤が私の中で繰り広げられていた。

「まぁ。いいですよ。今日だけですからね。」
「やった〜」

今日は大勢で呑むのも悪くないと思った。
隊舎から見える真っ暗な空には白い月が輝いていた。


小鳥の囀り……なんて美しいもんじゃないけど、小鳥に起こされ、私は着替える。
また、なんの変哲もない一日が始まる。
カレンダーをみて思い出す。

あ。誕生日か…

そう。今日は私の誕生日なのである。

みんな覚えてるかな?

ちょっと……いや。
ちょっと以上不安だった。
誰も祝ってくれない誕生日は今までにも幾度かあった。

………最低ギンは覚えてくれてるかな。 そんなふうに考えながら、死覇装に着替えた。


一通り、仕事が終わって私は家に向おうとしていた。

結局、誰も祝ってはくれなかったかぁ………
こんなことなら、朝から言ってればよかったなぁ。
みんなに、私誕生日なんだ〜ってさ…

そんなことを思いながら、帰り支度を済ませた。

「では。隊長。私はこれで…」
「ああ。お疲れ。」
「お疲れさまです」

私が執務室をでようとした時、

「あ!松本!」
「はい……」
「雛森が呼んでたぞ。」
「え?雛森が?」
「隊舎に来てほしいんだと。」

なんだろう。

何を考えているのか。
そんなことを考えながら、隊長に、

「わかりました。失礼します」

と、言って出ていった。


私は十番隊隊舎から瞬歩でしばらく歩いて五番隊舎に向かった。
五番隊舎について、私は副隊長室へ急いだ。

雛森の用事って何かしら。

コンコン
軽くドアをノックして入る。

「私、乱菊よ〜」
パンパン
ドアを開けて未だ一歩も入ってないのに、たくさんの破裂音と一緒に細い紙が飛んでくる。

「なっ何っ!」
「「乱菊さん!お誕生日おめでとうございます!」」
「えっ?」

私の目の前には、吉良と修兵、藍染隊長にギン、
京楽隊長と何時の間に来たのだろう日番谷隊長、そして…雛森いた。

「おめでとうございます!乱菊さん!」
「おめでとう!乱ちゃん!」
「おめでとう…」
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「おめでとう。乱菊。」

一通りみんなが言い終わったあと、机の上に準備されている料理にすすめられた。

「これ…」
「雛森くんが作ったんですよ。」

藍染隊長がそう教えてくれた。

「雛森が…?」
「ごめんなさい。本当は乱菊さん以外のかたに教えてもらおうとしたんです…でも」

今にも泣きだしそうな顔で話をする、雛森。

「でも?」
「でも…乱菊さんみたいにたくさん話ができるかたって居なくて…」
「!」
「本当は七緒さんに頼もうとしたんですが…日程があわなくて」
「雛森…」


あなたがこんなことを考えていたなんて…私っ……


「今日の宴、企画したの雛森なんだぜ?」
「え?」


私の為に…?

私の為にしてくれた。
こんなにうれしいことは他には無い。
本当にうれしい。
最高の誕生日プレゼントだ。

「乱菊さん!食べてみてください!」
「うん!」

泣きそうになった。
胸がつまった。

ごめんね雛森。

あなたのことちゃんと理解してなかった。

ありがとう。本当に………


「乱菊さんどうですか?」
「ん?嗚呼。……まぁこの前よりはかなりおいしいわ。」
「ありがとうございます!」


あんたのその笑顔が何よりのプレゼントね。


「乱菊さん!」
「え?」

雛森が耳を近付けるようにと仕草をする。

「お誕生日おめでとうございます!」

耳打ちしてきたそのことばは、今まできいてきた祝いのことばの中でも一番きれいだった。



貴女の手料理はやさしい味とちょっぴり涙が交じった味だったよ。



























後書き――――――
今回で桃乱も、3作目ですかね?(あやふや
今回のお話は、乱菊さんのお誕生日のお話でした。
いかがでしたでしょう。
ってか、最近、多いね。誕生日作品・・・・・すみませんね。好きなんですよ。実は(あ
今回の、桃ちゃんお料理題作戦(あ)ですが、桃ちゃんは料理下手な設定でした。
実は、桃ちゃんは料理上手いってイメージがあるから、別に、桃ちゃんを貶してるわけでありませんよ!!
ここは強調して言っておかないと、駄目な気がしたので・・・・
ってか、どっちのイメージもあるなぁ〜。。
乱菊さんは、どっちかと言うと、料理下手なイメージ・・・・(あ
まぁ、そんなわけで、自分でも、どう辛味を・・・違う。
絡みを持っていこうかと、考えた末、こうなった、へんなもんになりました。。。ごめんなさい。。
楽しんでいただけたら、嬉しいです。
ちなみに、「おめでとう」って言ってるのは、上から、吉良・京楽隊長・シロちゃん・藍染隊長・修兵・ギンさん です。
雛森はあえて後にしました。
京楽隊長の「乱ちゃん」ってのは、イメージそんな感じなので、そういう呼びかけにしました。
でわ。此処まで読んでくださって、ありがとうございました。
2007.02.11.狸作









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