夜一様が私の前に帰ってきて早三カ月。
夜一様はまた私の前から居なくなった。
貴女に会いに現世まで
朽木ルキア処刑事件から早いことに三カ月たった。
朽木は十三番隊に戻り、様々な乱闘騒ぎはお咎めなし。
旅禍の黒崎一護は死神代行という特別処置がなされた。
あの事件で護廷十三番隊の隊長は三人もの欠番が出た。
まぁ私にとってはそんなことはどうでも良いのだ。
あの事件で私の夜一様が帰ってきたことが一番大きい。
私はあの人を許せないと思っていた。
でもそれは違って、目の前に姿を現されるとそんなことどうでも良くなった。
私たちはまた手を取り合い、
私は夜一様について行くと決めた。
「夜一様はまだ来ないのか…」
私は二番隊隊舎でため息をついた。
「夜一さんは追放された身でしょ?そんなのこのこ帰ってきたりしませんよ」
油煎餅をバリバリ喰いながら、副隊長の大前田が言った。
「夜一さんなどと気安く呼ぶな!無礼者!夜一様だ!夜一様!」
私は椅子から立ち上がり、机に手を突いて思いっきり、大前田に向かって怒鳴った。
「す…すんません……でも、そんな怒鳴らなくても…」
「何だ?まだ何か言いたげだな…言ってみろ。」
「いえっいいっす」
全く根性の無い奴だ。
こんな奴が良くもまぁ、副隊長になれたものだな。
不思議でならん。
夜一様は追放ではなく、二番隊隊長及び刑軍団長の地位剥奪だけである。
たとえ夜一様が我が隊から名前をはずされても、
夜一様が居た事実は様々な書物、部屋からわかる。
だから私はそこに夜一様の面影を感じ、過ごしてきた。
また再び会うことが出来たし、和解もしたのだ。
こちらに戻ってきていただけないものか。
「何時来てくださるのか…」
また私は小さくため息を付く。
「現世に行ってみたらいいんじゃないっすか?」
「?現世…そうか!」
会えないのなら会いに行けばいいのだ。
「気づいてなかったんすか?」
「気づいていた!今言おうとしていたのだ!」
「へ〜へ〜そうっすか」
全く。
大前田のクセに。
だが彼奴にしては良いこと言うじゃないか。
現世に行くぞ。
現世に行くに当たって情報収集をせねばならない。
これはやはり、手っ取り早く行ったことのあるやつに聞くのがいいか。
「おい。砕蜂。隊主会終わったぞ」
「あぁ…なぁ日番谷。お前、現世に行ったことあるか?」
「そりゃー…虚退治とかで…」
「やはり、それくらいでしか無いよか…」
やはり、渦中の人物だった奴に聞くのが早いか。
「おい!砕蜂!」
「帰る。参考になった」
「…なんなんだ?彼奴…」
私は十三番隊に急ぐことにした。
「朽木ルキアは居るか?」
私は十三番隊の隊舎に入るなり叫んだ。
「はっはいっ!此処に!」
朽木は私の声を聞きつけるなり、すぐ此方にきた。
「わっ私に何かご用ございましょうか」
「あぁ。現世について聞きたい」
「…はっ…はぁ。現世ですか?」
「そうだ。現世についてだ」
朽木は不思議そうな顔をして私に聞き返した。
彼奴の世話にはなりたくないんだがなぁ。
そんなことを思いながら私は現世に来た。
現世のとある店の前に来た。
『浦原商店』
如何にも怪しい匂いがする店だ。
そして私のもっとも嫌いな名前。
浦原喜助の名前を思わす"浦原"の二文字。
店長がその浦原喜助だから仕方ないか。
浦原に頼むのは癪に障るので、あの"テッサイ"に頼むことにした。
「お待ちして居りました。」
「世話になる」
テッサイは戸を少しだけ開け、此方を見た。
私はその少し開けられた戸を開け中に入る。
中は明かりはついて居らず、薄暗かった。
表向きは駄菓子屋のような、万屋のようなところのようである。
明かりがついていない感じが怪しい雰囲気を一層、増しているようだ。
「此方が頼まれていた義骸です」
「すまない。では請求は此処に」
私は請求先の書かれた紙をテッサイに渡した。
「はい。確かに」
テッサイが確認したのを見て、私は義骸に入った。
「なんだが体が重い気がするな…」
「すぐ慣れますよ」
「!!」
後ろから聞き覚えのある声がした。
私はすぐさま振り返る。
「うっ浦原喜助――!!!!!!!!!!!」
「来るんだったら言ってくださったら良かったのに〜水くさいっスね〜」
「なっ…なんで…貴様が…!」
「此処はアタシの店ですからね〜。アタシが居ても全然不思議じゃないっスよ?」
扇子で口元を隠し、薄気味悪く笑っている。
「それにこの服はなんだ!」
私は義骸に着せられている服をひらひらさせてみせる。
「あ〜それは、現世の正装なんスよ」
「……本当か?」
「本当っス!」
あやしい。
私は浦原の話てる内容を信じていいのか疑っていた。
そう思っていたら、テッサイが。
「砕蜂様…そろそろ向かわれた方が…」
「あ…あぁ…」
疑いは残るが、私は夜一様を探しに行くことにした。
「…とっとにかく、私はもう行く!…世話になったな!」
私は走って店から出た。
「頑張ってくださぁ―い」
「っ!!」
ああやって、全部お見通しみたいなところが嫌いだ。
そして、夜一様を連れ出したのも気に食わん。
夜一様も、どうしてあんなやつと共に出て行かれたのか。
全く理解ができない。
それよりも。
テッサイは私を裏切ったのか。
あの店のものは信用出来ないな。
いや。
もともと信用していないな。
さて。夜一様を探しに行くか。
元々この義骸には服が着せてあった。
これは浦原の趣味だろうか。
この桃色のひらひら…すれ違う人、みんな振り返ってるのだが。
こんな格好してたら密かに夜一様を探しに来たのに全然隠れられな
「お?砕蜂か?」
「!」
この声はもしや!
私は勢いよく振り返る。
そこには黒猫が一匹。
「よっ夜一様ぁ!」
私はすぐさま抱き上げた。
「夜一様!お懐かしい…このお姿を見るのはこの砕蜂、百年余りぶりで御座います…」
このズシッとした重さ。
艶やかな毛並み。
キリリとした瞳。
湿った鼻。
白く手入れされた歯。
何度貴女に会いたいと思ったか。
私は思わず頬擦りをしてしまった。
「嗚呼夜一様!この砕蜂!貴女に何度お会いしたいと思っていましたことか…!」
「砕蜂!儂はこっちじゃ。」
「へ?」
私は話しかけられた方へ顔を向ける。
そこには褐色の肌の髪の長い美しい女性が立っていた。
「よっ夜一様ぁ!?」
私は人のお姿の夜一様を見て驚いた。
目を白黒させて居ると、
「まったく…黒猫が全部、儂じゃないぞ?」
顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
真っ赤になりながら、黒猫を放した。
「よっ夜一様の声が聞こえたので…」
「お主のそそっかしいのは、まだ直ってないのか?」
クスクス笑いながら私を見ていた。
私はすぐに立ち上がり、夜一様の顔を真っ直ぐ見た。
「それにしても…お主のその服はどうしたんだ?」
夜一様私を上から下へ往復しながら見る。
「へっ…変ですか?」
「いや。よく似合って居るぞ。ただ…砕蜂もそんな服も着るようになったんじゃのぉ」
「う…浦原がこの服装が現世の正装だと……」
おずおずと私は夜一様に言うと。
「……あっはははははははっ…お主、喜助に一本してやられたなぁ!!」
「え…え――――――――!?」
私はまた、さらに恥ずかしくなった。
ただでさえ、私には似合わないって思っていたのに。
彼奴が
「これが現世の正装っス」
とか言うから。
ってか何で私は彼奴を信用してるんだ。
私はなんて馬鹿なんだ。
それより何より、許せん。
浦原お覚えておれよ。
「まぁ良いじゃないか。喜助も気を利かせたんじゃろ。」
「……どんな気ですか……」
「ははは。せっかく、現世に来たんじゃからこの辺、案内してやろう。」
「へっ?」
夜一様は私の手を掴み歩き出す。
私は一体全体何がどうなったのか意味が分からないが、
夜一様とまた手をつないで歩いていることがうれしくて。
願ったり叶ったりな訳で。
「砕蜂!?」
「はっはい!」
「どうした?参るぞ」
「はい!」
私はうれしくてうれしくて。
夜一様の背中を追った。
こんな思いになるのは百年ぶりだ。
「此処はのぉ。可愛い手鏡とか髪留めを置いててのぉ」
夜一様のこんなはしゃぐ顔。
本当に久しぶりだ。
当たり前か。
久しぶりに会ったんだものな。
確かに可愛い物が沢山置いてある。
夜一様の好きそうな物や、夜一様はこんなもの好きなのか?と思う物まで。
だが。
さすが、夜一様が見つけた店だ。
素敵だなぁと思う物ばかり置いてある。
「ほれ!この髪留めとかどうじゃ?」
「え!?」
夜一様が持っている髪留めは凄くキラキラしていて、私には勿体無い代物である。
「うん!よく似合っておるぞ!よし。」
え?え?
夜一様?
その髪留めをお持ちになって何処へ?
もしや会計に持って行く気なのですか?
「ちょっちょっちょっと待ってください!夜一様ぁっ!」
私は夜一様の腕を掴み、止める。
「何じゃ。砕蜂。気に入らんのか?」
「そっそんなことは……ですが、こんな…こんな物…私如きに勿体無いです!」
「勿体無い?そんなこと言うな。お主に似合わぬ物はないぞ」
そう云いながら私の頭を触る。
その温もりは、一瞬だったが。
とても暖かかった。
その一言が、恥ずかしくて。
それ以上に、嬉しすぎて。
顔が熱くなる。
そんな私を見て夜一様は
「クスっ」
と笑い会計を済ませに行った。
私も夜一様に何か差し上げたい。
お返しがしたいと思うのは必然なことで。
次に行った店で探してみることにした。
夜一様に似合いそうなもの…似合いそうなもの……
………これは…どれも素敵過ぎて選べないな。
そう、思って居るとき、ふと目に付いた蜂と黒猫の飾り。
おそらく、鞄などに付けるのだろう。
「どうじゃ?なんかいい物でもあったかの?」
「いえ。特には無いです。ですがどれも素敵ですね」
私は夜一様に見られないように、それぞれ一個ずつ買った。
空が茜色になった頃。
私が帰らなければならない時間になっていた。
「今日は楽しかったぞ」
「私も…楽しかったです」
「これ。土産に持っていけ」
そう云って先刻買ってくださった髪留めを渡してくださる。
「…大切に致します」
「あぁ」
「あ…夜一様!」
「何じゃ?」
私は先ほど買った飾りを取り出す。
「あの…」
私は猫と蜂の飾りを両方見比べながら、蜂の方を夜一様に向けた。
「これを…受け取ってください!」
「……ほぅ…そうゆうことか!」
夜一様はそう言うと蜂を手に取ってくださった。
「これを砕蜂じゃと思えばいいんじゃな」
夜一様はニヤっと私に笑いかけた。
見抜かれた。
そう思った私は顔が熱くなるのを感じた。
「大事にするからな」
「!はい……ありがとうございます…」
私はその一言で一気に嬉しくなった。
夜一様は私を良くご存知だ。
地獄蝶が私の周りを飛び始めた。
帰りの時が近づいているのだ。
そう思っていたら、穿界門が開いた。
私は義骸から抜け出る。
夜一様に背を向けた。
「気をつけてな」
「はい…」
振り返り、夜一様の方を見ながら云う。
「夜一様!」
「何じゃ?」
「また……また会いに来ていいですか?」
夜一様は一瞬驚いた様子だったが、すぐに微笑んで云った。
「当たり前じゃ。これからは儂も気兼ねなく会いに行ける…」
夜一様の手が私の頬に触れる。
「もう。我慢しなくて良いからな。」
「!!」
夜一様の顔が近づき、軽く接吻。
「愛しておるぞ。砕蜂…」
「……私も……愛しております……」
涙が溢れた。
どんなに長い時間離れていても。
どんなに長い距離を離れていても、夜一様が大好きだ。
夜一様以外好きになんかなれない。
好きになる気もない。
「これこれ…泣くな。」
「……はい…」
「泣き虫は昔と変わらぬな…」
私の頭を優しく撫でてくださる。
また、おでこに軽く接吻。
「またな……」
「はい…またすぐ…」
私の頭の上から、手が離れる。
夜一様は一歩下がられる。
「お風邪等、召されませぬよう…」
「あぁ…お主も精進しろよ。砕蜂軍団長閣下」
「はっ!」
この涙はあの時のような悲し涙ではない。
うれし涙だ。
夜一様にまた会える。
激励して頂いた。
だから私は頑張れる。
私のために選んで、買っていただいた髪留めを持って。
貴女の分身に選んだ飾りを持って。
私は貴女が帰ってきてくださる日を。
貴女に会いに行く日を、待ち遠しく思いながら待つのだ。
また…貴女に会いに現世まで行こう
後書き
今回はヤナさまのリクエストで和解後の甘々なお話…という設定だったのですが。
ヤナさまのリクエスト通りになってないような気がしますが…(おい
遅くなって誠に申し訳ないです汗汗
結構前からできてはいたのですが、なかなかupできなくてすみません汗
ヤナさま如何でしたでしょうか。
和解後、夜一さんがなかなか魂社会に帰って来ないので、砕蜂がはるばる現世ま
で夜一さんを訪ねに行く話にしてみました。。。
甘々になってないなぁ…すみません…(>へ<;)
なんかまとめようま
とめようとすると、ずるずる長くなってしまいました(´д`;;))))
読みにくくてすみません(≧へ≦)
そして私の小説ではあまり出てこない大前田。
砕蜂と絡ませて書くのはかなり久しぶりでした。
この話は大前田の前ではいいとこ見せようとする、隊長感を漂わせてますが、夜一さんの前では女の子女の子してしまう感の砕蜂がうまく出てたらいいなぁと
思います。。
それでは。今日はこの辺で。
感想・リクエスト等お待ちしております。
狸
2010/02/27書き上げ
2010/05/01公開
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