気がつくと いつも考えていた 気がつくと いつも想っていた 気がつくと いつもあの日を後悔していた 連れて行けなかった現実に屁理屈をつけ 連れて行けなった理由を自分に言い聞かせる 好きだから連れていけないなんて綺麗事かの? 砕蜂…… 会いたい 会って一番に伝えたい言葉があるんじゃ …もう一度…お主に…Cat and Bee I have never forgotten you. version:cat 暗い闇から出たみたいな、感覚に陥った。 昔を思い出していた。 砕蜂と過ごした日々が、閃光のように儂の頭の中で輝いていた。 涙があふれそうになっていた。 どうして思い出していたのかわからない。 が、理由なんてもうどうでも良くなっていた。 輝かしい思い出に。 暖かい思い出に、浸っていた。 儂は塀の上に猫の姿で座っていた。 大きく明るい月を見上げながら、いつの間にか彼女の事を考えていた。 元気にしておるかのぉ… 涙が出てきた。 猫が泣く姿は凄く不思議な光景だろう。 だが、そんな猫の姿を見る人は居ない。 暗闇は延々と続いているかのように思えた。 光は唯、月光だけ。 月を見上げると、砕蜂が見えた。 砕蜂は怒っておるだろうか… 置いていったという事実は、消しされない。 儂は可哀想なことをしてしまった。 砕蜂は儂のことなんて、忘れてしまってるかもしれぬ。 仕方ない。 だがそれはそれで悲しかった。 恨まれているかもしれない。 それも仕方ない。 だが悲しかった。 砕蜂の気持ちは、痛いほどわかっていた。 謝っても、謝りきれないこの気持ち。 すまない…本当に 一目会いに行きたかった。 砕蜂の顔を一目見たかった。 一年という月日は長く感じられた。 一年も彼女に会っていない。 あんなに毎日会っていたのに。 どうしてこうなってしまったのか。 考えても、答えは出なかった。 唯、自分が悪いということだけわかっていた。 「いいんッすか?本当に…」 「あぁ。一目見に行くだけじゃ…」 儂は喜助に頼んで、尸魂界に行けるようにしてもらった。 「アタシは行けませんから…」 「あぁ。承知しておる。」 「捕まらないでくださいよ?迎えに行けませんから。」 「そんなへま誰がするんじゃ。」 陣が出来、儂はその中に飛び込んだ。 「いってらっしゃいッス」 「行ってくる」 捨てたこの空間に、再び戻ってくるとは思わなかった。 砕蜂…会いにきたぞ…お主は、それを望んではいないかもしれぬがな… 儂は猫の姿のまま、2番隊隊舎に急いだ。 隊舎のすぐ近くには山がある。 その山の裾から、隊長室を見ることができた。 暫く、隊長室を見張っていると砕蜂が入ってきた。 随分疲れた様子だった。 儂が居なくなり、全てを砕蜂が肩代わりしているようじゃ。 すまない…砕蜂… 心の中でそっとつぶやいた。 砕蜂は暫くボーっとしていた。 かと思ったら、椅子から立ち上がり、こちらへ来る。 山を、森を見つめながら、呟いた。 「待っていますよ…夜一様…」 驚いた。 儂のいる方を見ながら言ったから。 バレたのかと思った。 だが、砕蜂の気持ちがわかった。 儂のことを今でも、好いてくれておると。 儂のことをまっておると。 すまない…本当に… 涙が出てきた。 お主を思う、儂の気持ちは未だ変わっていないぞ… 暖かい風が、頬を撫でる。 儂は悟られないように、現世へと帰った。 「あらら…」 「どうした…喜助」 儂は現世に戻ってきて、喜助の怪しい店にいた。 まぁ、居場所は此処しかないからのぉ。 喜助が(これまた怪しい)モニターを見ながら言った。 「誰か来たと思ったら、砕蜂ちゃんですよ」 「何っ?!」 儂はそれを聞くなり、店を飛び出した。 「よかったっすね…夜一サン…」 砕蜂の霊圧を、感じながら進む。 砕蜂に近づいていった。 儂は珍しく人間の姿になっていた。 砕蜂の作ってくれた、綿の襟巻きを巻いて。 砕蜂を見つけた。 だが、彼女は帰ろうとしておった。 「ここまできて弱気になるのか?」 「っ!!」 弱気な背中は、勢いよくこちらに振り返る。 さっきとは全然ちがう。 しゃんとした姿になった。 「夜一様……」 泣き出しそうな顔だった。 儂も少し泣きそうになった。 だが、ぐっと堪える。 「ここまで来てはいかぬ…」 「すみません…」 儂を見つめる瞳がそれた。 恥ずかしいのか。 涙を流す前触れか。 頬は紅色に染まっていた。 「早く帰れ…ここは、お主のいるところではない…」 「…!」 厳しいことを言ったかもしれぬと、後で後悔した。 だが、これもお主のためなんじゃ。すまない… 砕蜂が何か咎められるのは、絶対にあってはならぬから。 「…ぃぇ…いいえ!帰りません!貴女を連れて帰るまでは…」 「!」 驚いた。 砕蜂はそこまで考えておったのか。 儂のことを、そんなにも考えてくれていたのか。 …ありがとう…砕蜂。だが… 「…砕蜂……無理じゃ… お主には………」 いや…お主にも…じゃな… 儂は儂を一番に考えてくれておる、最愛の彼女に思った。 「帰りたくはないのですか?」 「………」 あぁ…帰りたいのぉ… 帰りたいが、儂はもう帰れない。 あそこには、もう、儂の居場所はないんじゃ… 自分で切り捨てた場所。 もう、後戻りはできないんじゃ。 暫く沈黙が続いた。 「……時間じゃ砕蜂。」 「え?」 喜助に頼んでおいた、尸魂界とこちらを繋ぐ道が出てきた。 砕蜂は驚愕しておった。 「夜一様っ!」 泣きそうな。 でも、怒りを込めた表情じゃった。 「すまんのぉ…砕蜂……」 「夜一様ぁっ!」 砕蜂がこちらに来た。 儂は、捕まえられた。 そう来ると予想しておったから、今回は捕まれるのを待った。 一瞬、砕蜂が止まった。 儂はその隙を見て、引き寄せ、接吻した。 砕蜂は泣いておった。 「こんなことを言っては、お主を混乱させるかもしれぬが…」 もう、隠したくないと思ったら。 隠せないと思った。 儂の胸のモヤモヤを吐き出したかった。 「儂はお主を、愛しておるぞ…誰よりも…何よりも大切じゃ…」 「夜一様…私もっ…私も…」 その言葉の次は聞いてはならぬと、漠然と解っていた。 じゃから儂は砕蜂を、襖の向こうへ入れた。 砕蜂…好きじゃ…誰よりも愛しておる… 砕蜂が真っ直ぐこちらを見つめる瞳は、切なかった。 儂の胸の奥底に届き、儂の中にある。 あの輝かしい日々と一緒に。 幸せになってくれ… お主が幸せなら、儂は幸せじゃ。 たとえ。 儂は地獄の中に居ようとも。 いつもお主を思う。 お主が、怒りと憎しみを儂に向けていても。 儂はずっとお主の幸せを思う。 お主と会えて。 お主を好きになれて。 本当によかった。 「ありがとう…砕蜂…」 風が吹き、襟巻きがなびいた。 風は少し冷たくなっていた。