気がつくと

いつも探している




気がつくと

いつも影を追っている




気がつくと

いつも貴女の帰りを待っている







貴女がいなくなった事実を

未だ受け止められない自分がいる








連れて行ってくださらなかったのは
私が力不足だからですか?








夜一様……

はやく帰ってきてください
はやく迎えにきてください




そして…もう一度…









Cat and Bee I have never forgotten you. version:bee
長い長い夢を見ていた。 瞳をあけると背中の痛さに驚いた。 周りは暗く、夜になっていた。 私の瞳からは何故か涙が、流れていた。 もう、あの思い出には、 あの方には、見切りをつけたはずなのに… まだ、どこかで期待をしている自分がいた。 どこからか出てきて、私を連れ去ってくれる、夜一様の姿を。 絶対にそんなことは無いのに。 私は立ち上がり、廊下に出た。 空を見上げ、月を見る。 涙はまだ止まらない。 夜一様…今貴女はどこにいらっしゃるんですか? この言葉が、貴女に届けばいい。 そんなことを思いながら、長い長い夢を思い出す。 夜一様と初めてあったこと。 一緒に祭りに行ったこと。 告白されたこと。 一緒に一夜を過ごしたこと。 夜一様が私を置いていったこと。 夜一様のことを、思い出せば思い出しただけ、胸が痛む。 嗚呼。私はまだ、あの方が好きなんだ… 長く伸ばした後ろ髪は、貴女の真似。 短い横髪も貴女の真似。 貴女が好きだから。 忘れられないから。 こんな形で貴女を追っている。 貴女の手を離さないと決めていたのに。 貴女から離れないと決めていたのに。 全部が失敗に終わった。 貴女の言葉を全部、本気で受け止めていたのに。 貴女は嘘をついたのですか? 空に輝く月を見ながら、私は問いた。 貴女も月を見ていますか? 月を通じて貴女に会えたらいいのに。 そんなことを、思いながら私は廊下で泣いていた。 季節は一巡りし、夜一様が出て行かれた春。 私は刑軍軍団長になっていた。 つまり二番隊の隊長である。 裏切られたという事実は、私に重くのしかかっていた。 貴女を忘れられない原因にもなっていた。 私は置いて行かれ、夜一様を忘れた日は一日も無かった。 いつも夜一様のことを考えていた。 裏切られた悔しさや、怒りもあったがそれ以上に悲しさが強かった。 何が傍にいるだ。 何が離さないだ。 何がついて来いだ。 全部…全部嘘じゃないか… 最後に付けられたしるしは、1ヶ月も経たずに消えてしまった。 あれがある間は、夜一様を信じれた。 でも今は… 全くと言っていいほど、信じられない。 いや。 もう私には信じることさえできない。 だって私は、夜一様に置いて行かれたのだから。 私は部屋を見渡す。 夜一様が行かれた時、私に当てられたこの部屋。 昔、ここに入れていただいたときは、恐怖と不安が強かった部屋。 だが、今は唯一、夜一様の痕跡を追える場所。 何時までもこうではいけない。 わかっている。 でも、机をさわる度に。 椅子に腰を下ろす度に。この部屋に入る度に。 貴女を感じる。 貴女の温もりを感じる。 こんな風に眺めていたのかな。 こんな風に仕事をしていたのかな。 想像の中の私が、貴女の近くにいる。 私はいつも貴女のことを考えていた。 迎えに来て欲しくて。 待っている。 ずっと。 「待っていますよ…夜一様…」 隊長室から見える森は、何もかも呑み込んでしまいそうな暗闇が潜んでいた。 窓を開け、その暗闇に向かって言った。 そこに夜一様がいそうだったから。 そよ風が流れ、花が舞う。 夜一様が行かれたのも、こんな日だった。 晴れていて、暖かい日だった。 私は最後に付けられたしるしがあった場所に触れる。 ほんのり暖かい気がした。 甘い感情がふっと蘇った。 貴女に会いたい。 一目でもいい。 話せなくてもいい。 ただ、生の貴女をみたい。 机の引き出しを開け、書類の下に隠していた写真を出す。 最後に撮った夜一様との写真。 笑顔で私の肩を抱いている写真。 幸せそうな私の表情。 これを見て決心した。 会いに行こう… 私は隊長室から出た。 舜歩で急ぐ。 夜一様のだいたいの居場所の目星は、ついていた。 居ないかもしれないが、確かめてみたかった。 「久々だな…現世など…」 私は空座町と言う場所に出た。 なぜなら、夜一様がいらっしゃるから。 会いたい一心で来てしまった。 なんと自分は計画性が無いのだろう。 会ってどうする。 連れて帰るのか? 私にそんなこと… 決心を固めた夜一様の気持ちは、漬け物石の如く動かない。 動じない。 たとえ私がいくら頼んでも。 いくら縋っても。 帰ろうか…私は後ろを向き、地獄蝶を呼ぼうとした。 「ここまできて弱気になるのか?」 「っ!!」 声のした方へ、振り返る。 聞き慣れた声。 聞いただけで、泣きそうになった。 「夜一様……」 本当に会えるなんて思わなかった。 本当に。 「ここまで来てはいかぬ…」 「すみません…」 夜一様… 何も考えられなかった。 頭の中が真っ白になっていた。 貴女に会えた嬉しさが、大きすぎて。 胸がいっぱいになった。 「早く帰れ…ここは、お主のいるところではない…」 「…!」 突き放されることも、想像していた筈なのに。 実際言われると、正直こたえた。 「…ぃぇ…いいえ!帰りません!貴女を連れて帰るまでは…」 「!」 正直、無理だと思う。 私は夜一様を連れては帰れないだろう。 でも、本心だった。 "夜一様を連れて帰りたい"なんとかしたかった。 「…砕蜂……無理じゃ… お主には………」 やっぱり無理か。 でも一瞬、夜一様の表情が悲しみの色を帯びた。 「帰りたくはないのですか?」 「………」 帰りたいのでしょう?あの日に。 あの場所に。 暫く沈黙が続いた。 「……時間じゃ砕蜂。」 「え?」 振り返ると、襖が現れていた。 人間界と尸魂界を繋ぐ道の入り口。 まさか… 「夜一様っ!」 夜一様は呼んでいたのだ。 私を帰らせる為に。 「すまんのぉ…砕蜂……」 「夜一様ぁっ!」 私は今度こそはと思い、夜一様を掴んだ。 掴んだが最後。 泣きそうになった。 一瞬全てが停止した。 全てが震えた。 その一瞬を夜一様は見逃していなかった。 私を引き寄せ、接吻した。 涙がこぼれた。 嬉しさが溢れた。 「こんなことを言っては、お主を混乱させるかもしれぬが…」 次の言葉を黙って待った。 夜一様の顔を見上げながら。 「儂はお主を、愛しておるぞ…誰よりも…何よりも大切じゃ…」 「夜一様…私もっ…私も…」 私は襖の向こうへ入れられた。 閉まっていく。 どんどんと。離れていく。 貴女との距離が。 嗚呼。夜一様。どんなに離れていたって、私はあなたをいつも思っています。 嗚呼。夜一様。愛しています。 最後言えなかった思いを告げた。 私の編んだ綿の橙の襟巻き、よくお似合いでした。 「今度こそは…」 涙を足跡にしながら私は帰った。 "今度こそは、貴女を連れ戻せるように…" と思いながら。


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