梢綾は午前の授業中、ずっと上の空であった。



昼休みに早くならないか、待ち遠しくてたまらなかった。

気ばかりが焦り、授業中当てられても無視することが多かった。




(2人きりになったらどうしたらいいのだろう…)




そのことばかり考えていた。


梢綾の視界には3階からの景色が広がっていた。

つまり授業を聞かず、外ばかりを見ていたのだ。


その視線の先には、並木道が広がりその奥に庭があった。


そして庭に行く道とは別の道をまっすぐ行くと図書館があった。




(あんなに近かったのか…)




外を眺めながら質問する内容を考えていた。


「蜂!聞いてるのか!?」

「あっ……すみません……」


急に当てられて、梢綾は慌てて立った。




(こんな姿、夜一様には見せられないな……)




「全く……きちんと聞いていろよ!」


「すみません。」




頬を赤くしながら、恥ずかしそうに席に座った。
















授業の終わりを告げるチャイムの音が響く。

待ちに待った昼休みである。



梢綾はそわそわしていた。



そんな時、教室の外に人だかりが出来ていた。




(あっひょっとして…)




梢綾は人だかりの方へ小走りで行った。

なんたって、梢綾の席は教室の入り口からはとても遠いから。






ザワザワザワ






「嗚呼っやっぱりかっこいいわねぇ…」

「おい。乱菊!誰が来てるんだ」





梢綾は乱菊を見つけ、何の人だかりか聞いた。





「ん?会長がお見えだから、みんな集まっちゃって…」


「会長?」


「うん。うちの、虹色生徒会の会長。四楓院夜一お姉様」


「!!」





梢綾はかなり驚いていた。



まさか、あこがれの夜一様が生徒会長だったとは、思いも寄らぬ出来事である。



梢綾は小声で




「何故もっと早く私に言わぬ!」




怒りながら、乱菊に睨みを効かせた。




「あら?言ってなかったかしら?」




と夜一の方を見ながら答えた。




「ったくぅ…」




梢綾はちょっとイラッとしながら、ため息をついた。

改めて夜一のカリスマ性と人望のあつさを身を持って実感した。




(だが…さすがだな……)




夜一をしばらく見ていると、向こうもこちらに気がついたようで。




「梢綾!待たせたのぉ!」

「えっあっはっはいっ!」




笑顔で梢綾に笑いかけた。

梢綾は急いで弁当を持って、夜一に近づく。



周りの生徒は驚きつつも道をあけた。

夜一が声を発したことで、周りは静かになっていた。




「さぁ行くかのぉ」

「はっはいっ」




顔を少し赤らめ、夜一より半歩下がってついて行った。




「何で梢綾ちゃんのこと知ってるんだろう…」

「気になるね〜」




クラスメイトは梢綾が突然、夜一に誘われたことが気になって仕方なかった。




「ってか乱菊。梢綾ちゃんのこと知ってるの?」




一人の生徒が先ほどの梢綾と乱菊の話を見ていたのだろう。

声をかけてきた。




「知ってるわよ?同じクラスじゃない」




乱菊は意地悪そうに笑って教室に入っていった。
























図書館に行く途中にある庭へ2人は居た。



「ここのガーデンにはあまり人が来ぬから静かで好きなんじゃ」



夜一は梢綾に微笑みながら椅子を引いて勧める。

庭にはまばらに椅子と机が設置してあった。



「わっ私が…」

「いいんじゃ座れ」



梢綾は「それでは…すみません」と言って椅子に座った。
夜一は向かいの席についた。




「お主と初めて会ったのも此処じゃったなぁ」

「はい」




弁当の包みを開けながら話をする。




「そういえば、お主はホームステイしておるのか?」

「はい。血のつながりはない、遠い親戚の家にお邪魔しています」

「そうか。」




夜一のお弁当箱は梢綾のものよりも遙かに大きかった。

それは、お重のように見えた。




「そういえば、四楓院お姉様は生徒会長殿と伺いましたが…」

「"四楓院お姉様"は止めんか。堅苦しい。もっと砕けて読んでよいぞ。"夜一さん"とか…」




そういわれたので、梢綾はとても驚いた。






「めっ滅相もございません。夜一さん等とは……」






椅子から立ち上がり、3歩ほど退いた。


夜一の表現は曇っていた。





「でっでは…"夜一お姉様"とお呼びせていただくことにします」





顔は赤くなり、うつむきながら言った。




「嫌じゃ」

「!?」




梢綾は勢いよく顔を上げ、夜一を見る。

夜一は少しフンと怒りながら言った。




「"夜一"で良いと申しておるだろう」

「ですが…」




夜一は聞き分けのない子を見るように困った表情で梢綾を見た。
梢綾は観念して




「でっでは…夜一様とお呼びさせていただきます…」




申し訳なさそうに、そういった。
掻き消えそうに小さな声で。




「まったくお主は…」




夜一は苦笑しながら梢綾を見た。

梢綾もあははっと苦笑した。












風邪がふわっと吹いた。


その秋風はまだ夏を思わせる暖かさだった。








第四部完














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