言葉が紡がれる
愛のための・・・・・



言葉が紡がれる
私のために・・・・・・




その言葉一つ一つが
私を幸せにする


その言葉一つ一つが
私を闇から救った



もっと紡いで

もっと聞かせて




貴女の言葉を




夜一様・・・・
貴女の声と言葉が聞きたいです・・・





Cat and Bee The your kind words saved me from dark. version:bee
気が付くと、もう息が白くなる頃になっていた。 凍えるように寒い、12月の中旬だった。 年末に向けてのこの時期はいつも忙しい。 そのため、今日も早くから隊舎に向かった。 副隊長室。 そこが、隊舎での私の部屋。 隊長室とは真反対に位置する此処は、一人でいると、とてつもなく不安だった。 窓をあけると、庭は一面銀世界だった。 未だ誰も踏み込んでいないそこは、一際きれいだった。 思わず息を飲んだ。 「………へっへっくしゅんっ」 朝の風はかなり冷えていた。 当たり前だ。 なんたって、雪が降っているのだから。 私は風邪を引かないように、窓をしめようとした。 だが、手を止めた。 真っ白な世界に黒猫が一匹いた。 対色のその色が目を引き付ける。 「よっ夜一様……?」 白い世界に黒い点がひとつ。 その光景はすごくきれいで、水墨画のようでもあった。 私は自分が声を掛けたことを理解してなかった。 「砕蜂??ずいぶん早いのぉ………」 「あっはい。仕事がありますので…それより、夜一様こちらへ!」 「??何じゃ?」 「お風邪を召されたら大変です!!」 「大丈夫じゃっっへっくっしょいっズルズル」 「夜一様!」 「わっわかった…」 夜一様は渋々私の方へ来てくれた。 私は恐れ多いながらも、夜一様を抱き、部屋へ入る。 足跡のなかった綺麗な銀世界には、猫の足跡が一つあった。 窓を閉め、私は火鉢に火を炊いた。 もう少し、私が早く来ていれば、火鉢に火があっただろうに… 私はすこし、申し訳なく思いながら、座布団と毛布を出した。 毛布で夜一様を巻き、座布団の上に乗せた。 「すみません。先程来たので……」 「いや。良い。」 「寒くはありませんか?」 「嗚呼。大丈夫じゃ」 夜一様の声は少し恐かった。 私への怒りなのか。 疲れなのか。 私はそんなことを模索しながら、火鉢をいじった。 その様子を見て、気付かれたのか、夜一様が言った。 「すまんのぉ……」 「え?」 「お主が悪いんじゃないんじゃよ。」 「……夜一様……」 夜一様のお言葉に心なしかほっとした。 夜一様の言葉一つで、私はこんなにも幸せになる。 夜一様はやっぱり、偉大だと。 心の中で呟いた。 「まったく、新しい部隊の集まりが悪いっ」 「そうですね。なぜ、すぐに集合できないのか…」 「そうじゃ!わかってくれるか!砕蜂!!」 「もっもちろんです!」 私は少し興奮しながら言った。 自分が悪くないと知り、嬉しかったのも事実だ。 だが、夜一様が私に愚痴を言ってくれていることが、何よりもうれしかった。 皆が来るまでの時間。 私は夜一様と共に過ごした。 息は自分の熱くらい熱いのだろうか。 白くなる息を見つめながら、ぽつりと思う。 手足が冷えているので、擦り合わせていた。 一仕事終え、こもった空気を換気するため、窓を開けた。 窓が外と内の仕切りを解放したとき、冷たい冷気が頬を撫でた。 部屋の中はさほど暖かくなかった。 なんせ、部屋の中に居ても、息が白いのだから。 換気はほんの数十秒でよかった。 冷たい風に身震いしながら、窓を閉めた。 「副隊長……」 「なんだ。」 「隊長がお呼びです」 「隊長が?」 何だろう。 夜一様が私を呼び付けることはよくあった。 部下の口調から急用でもなさそうだった。 なにはともあれ。 夜一様に会えるのだ。 これ以上うれしいことがあるだろうか。 いや。 有りはしないのだ。 私は急いで、副隊長室とは真反対の隊長室へと急いだ。 暫らくして、私は夜一さまの部屋の前についた。 「砕蜂でございます」 「お――!!待って居ったぞ」 部屋に入ると机の上に山積みになっている資料や書類が目に飛び込んできた。 「………ご用と申されますのは……」 「見ての通りじゃ!砕蜂。手伝ってくれぬか?」 「どうしてこんなになるまでほっているのですか!」 「仕方ないじゃろ……」 「仕方なくありません。まったく…連日、空鶴さんのところで飲んでいらっしゃるから」 「そう言わずに、手伝ってくれぬか?」 「……仕方ないですねぇ……」 「よし!!すまぬな砕蜂!」 「……いえ。」 利用されている そんなことばが頭を過ったが、夜一様の手前。 そんなことはないと、自分に言い聞かせた。 夜一様が一言 「今日中に終わらせねばならぬのじゃよ。」 ………これ……今日中におわるの? 仕事の山を見てそう思った。 外はもう、真っ暗になっていた。 だが、時間はまだ丑時を過ぎた頃。 仕事は1/3程まで減っていた。 「そろそろ休憩するかの」 「はい。」 「ちょっと待っておれ…」 そう言うと夜一様はどこかへ行かれた。 夜一様の部屋にただ一人。 その部屋の主ではない私は、変な感じだった。 夜一様はここで、お仕事をなされているのか。 思った以上に広く、ゆったりと出来る空間であった。 だが私が、居てもいいのだろうかと思ったりもした。 私がそんなことを考えていると、夜一様が戻ってこられた。 「悪かったのぉ」 「いえ……」 「ほれ。」 「これは……」 私に手渡されたものは、蜜柑と白い四角い物体。 「冬の定番、蜜柑と餅じゃ。」 「……はぁ」 「火鉢に当たりながら食うかのぉ」 蜜柑を剥いた。 蜜柑の黄色の汁柑橘系の匂いが手に付いた。 私が蜜柑の筋を剥いているとき、夜一さまは豪快に食べていた。 さすが。夜一様… そんなお姿も美しく見えてしまう。 盲目。 そんな言葉が似合うと思った。 こんな風に頼られることさえもうれしく思ってしまう。 「砕蜂?…」 「はっはい!」 黙り込んでいた私を気になさったのか、声を掛けられた。 「どうした?嫌いじゃったか?」 「いえ。好きです…」 「そうか。よかった!」 うれしそうに笑う、その表情。 本当に素敵だと、心の中で思っていた。 ずっと、この人の傍に居たい。 ずっと、この人の傍に居られる。 そう、甘い感覚の中に居た。 まさか、あんな風に離れるなんて、あの頃は思いもしなかった。 それから、私たちは餅と蜜柑を食べて、仕事を再開した。 仕事の忙しさがピークを過ぎた、12月の下旬。寒さは厳しさをましていた。 だんだんと正月まで仕事を休む手続きをしにくるものが、増えてきた。 仕事が終わり、帰ろうとしていた時、夜一様が何故か私の部屋迄いらしていた。 「よっ夜一様?どうかなさいましたか?」 「いや……一緒に帰ろうと思うてな…」 「えっ?」 「嫌か?」 「いっいえっお供します。」 すごく、うれしかった。 私を誘う為だけに此処まで来てくださった。 それが何よりもうれしかった。 外はとても寒かった。 雪が積もり、足場からも冷えてきた。 「寒いのぉ…」 「そうですね…」 空は黒一色だった。 足場は白。 そのコントラストが、なんとも言えなかった。 「今年は実家に帰るのか?」 「あ…いえ。帰りません。」 「そうか…」 夜一様の言葉は意味深な感じがした。 何を考えていらっしゃるんだろう。 夜一様の考えていることは、私には予測のつかないことばかりだ。 夜一さまの考えがわからなかった自分も自分なのだ。 だから…… 「じゃぁ、今年は年越しは一緒じゃな!」 「え?はっはい」 「そうかそうか……」 いきなり口を開かれて、かなり驚いた。 そして、うれしそうな顔。 この顔には弱い。 何でも良くなってしまう。 大切な貴女だから。 大晦日。 大掃除は終わり、みな、思い思いの時を過ごしていた。 私もまた、同じだった。 仕事も収集もない。 楽な時間を過ごせた。 夜一様のところに行こうかな… ふと思った。 暇=退屈=退屈しのぎ=楽しい=夜一様 みたいな方程式が私のなかで出来ていた。 私は寝台から飛び降りて、夜一様の部屋迄行った。 「夜一様〜砕蜂です…」 「すまぬ。砕蜂!ちょっと急いどるのじゃ。」 「あっえっ?夜一様?!」 私が夜一様の部屋のドアの前で声を掛けると、夜一様はすごい速さで部屋をでていった。 私は一人夜一様の部屋の前で立ちすくんで居た。 どうしよう…帰ろうか… 私は引き返そうとした。 だが夜一様の部屋に、私宛のメモがあるのが、一瞬見えた。 私…宛?なんだろう。 すごく見たくなった。 だが、夜一様の部屋。 どうするべきか悩んだ。 入るべきか…それとも…… 夜一様の部屋の前で、悩んでいた。 そして結局… いいや。怒られても! 私はとうとう、夜一様の部屋に入った。 開け放たれたままの襖を、極力開かないようにそっと。 メモを手に取り、読んだ。 その内容と言うものは。 『砕蜂 今日の年越しは一緒に迎えよう。指定する場所迄来てほしい。場所は…』 えっ年越しを一緒に?夜一様の誕生日を一番早く祝える! と私は思い、今月から秘かに編んでいた襟巻を完成させるべく、急いで自室迄帰った。 「ぅ―――ん゛!出来たぁ!」 数時間後。 私は部屋に帰り、黙々と編んでいた。 夜一様の誕生日に間に合わせるべく。 ちょうどおわったので、本当に良かった。 私は、きれいな袋に入れ、リボンで括った。 夜一様。喜んでくれるといいなぁ。 ちょとした願望が私の中で生まれた。 私がそんな思いに浸っていると、突然ドアをノックする音が聞こえた。 「砕蜂。ちょっといいかの…」 「はい。大丈夫です。」 私はプレゼントを隠し、そう返事をすると、夜一様が入ってこられた。 「何でしょう」 「特に用がある訳では無いのじゃが。」 夜一さまのしどろもどろしている姿を初めて見た。 そんな貴女の姿も素敵だとやはり思っていた。 「今から、少し大丈夫かの。」 「はい。大丈夫ですが?」 「じゃぁ、ちょっと儂について来て欲しい。」 そういわれ、私はプレゼントを密かに持って夜一様の後をついていった。 私たちは隊舎の屋根の上にいた。 空は真っ暗だった。 「何ですか?」 「まぁ、見ての・・・・・・・・あ。」 「わぁっ・・・・・」 空からは、粉雪が降ってきた。 通りで寒いわけである。 屋根の上。 一体これから、何が起こるのだろう・・・・ 私は、考えていた。 きっと私が思いつかないようなことを考えていらっしゃるんだろう。 年越し迄後、数分。 「もうすぐじゃの。」 「え?そうなんですか?」 「あぁ。……5……4…3…2……1!砕蜂!あそこじゃ!」 「え―――っ!」 夜一様に指差された方を見ると、大きな花火がドォォォンと低い音と共に咲いた。 そこには、蜂と猫の形もあった。 「夜一様…これは……」 「去年はようやってくれた。これは儂からのご褒美じゃ。」 嬉しくてうれしくて。 涙が溢れて止まらなかった。 「あっありがとうっございます…」 「これこれ。泣くな。」 「うぇ――っ」 夜一様の胸に寄り掛かり泣いた。 夜一様は私の頭を撫でてくださった。 「あ。夜一様。これ…良かったら使ってください…」 「ん?何じゃ。」 私は編んだ襟巻を夜一様に渡した。 「ほぅ。襟巻か…鮮やかな橙色じゃなぁ」 「はい。夜一様はお持ちになって無かったので…」 「ありがとう。使わせていただくぞ。」 貴女のそんな一言が私を幸せにする。 「なぁ砕蜂…」 「はい…」 「好きじゃよ…」 そんな風に、何気なく告白された。 さらっと。挨拶みたいに・・・・ もちろん。答えは…… 「私も好きです…」 花火の火花が、雪に映ってキラキラ光り、幻想的だった。


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